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私の彼氏、宮城公 ③

Author: 紅城真琴
last update Last Updated: 2025-04-11 17:31:13

「研修医にしてはいいところに住んでるんだな」

ファミレスを出て、宮城先生と2人で家の前まで来た。

きっと翼が帰っているのだろう、家には明かりがついている。

「実家な訳、ないよな」

色々考えながら探るような言葉を口にする宮城先生。

「ええ、違います」

フフフ。

良い気分。

さっきまで宮城先生ペースだったのに、今は完全に私のペースだ。

「良かったら寄っていきますか?」

「嫌、でも・・・」

最初は送るからと言われ流れでここまで来てしまったが、私は宮城先生を驚かせたくなった。

「コーヒーくらい入れます」

「うん、じゃあ」

やっぱり気にはなるらしい。

***

鍵を開け玄関の中へ。

「ただいま」

「お帰り」

入り口で立ち尽くす宮城先生。

すると、何も知らない翼が顔を出した。

「遅かったな」

次の瞬間、

「ええ」

「あっ」

男性2人の声が重なった。

よし、勝った。

私はガッツポーズでもしたいくらい。

一方、驚いて声も出ない宮城先生。

「お前・・・」

翼は私を睨んでいる。

驚かせてごめん。

私が手を合わせて謝ると、翼は肩を落として見せた。

「宮城先生、ごゆっくり。失礼します」

一方的に言って、翼は消えていった。

「先生どうぞ。2階です」

驚いている宮城先生を、私は部屋に案内した。

***

「シェアハウスって事か」

2階に上がった時点で、先生も状況を理解したらしい。

「まあそうです」

「随分と大胆だな。変な噂でも立ったらどうする?」

「別に気にしません」

何、嫁入り前の娘がとでも言う気?

バカらしい。

「で、コーヒーは?」

「ああ、そうでした」

好き嫌いの激しい私は、食べられないものが多い。

その分好きなものにはこだわりがあって、コーヒーもその1つ。

「ブラックでいいですか?」

「ああ、ありがとう。あれ、豆から挽くのか。こだわってるな」

「ええ、ちょっと待ってくださいね」

どうしてもインスタントを飲めない私は、家では豆から引いてコーヒーを入れる。

面倒くさいけれど、やっぱり美味しいから。

「うまい」

いつもの診察室で見せる優しい笑顔。

「ありがとうございます」

「ねえ、これは?」

宮城先生は壁一面に作り付けられた本棚にぎっしり並べられた本を手に取る。

「私の趣味です」

「へえー」

並んでいるのは全部医療物。

小さい頃から、私は医療物のお話が大好き。

「これ、俺も好きだった。懐かしいなあ」

少年のように目がキラキラしてる。

「読んでもいいか?」

「どうぞ、私は勝手に寝ますから。好きにしてください」

「お前、どれだけ警戒心がないんだよ」

ブツブツいいながら、宮城先生はすでに漫画を手に取っている。

そして、気がついたら私はソファーで眠っていた。

***

翌朝。

「すまん。気がついたら朝だった」

何冊もの本を並べて読んでいるうちに、先生もウトウトしてしまったらしい。

「良いですよ。貸し1つって事で」

私もその方がありがたい。

何しろこの性格のせいで、敵が多いから。

「日勤ですよね?何か食べます?」

「ああ、ありがとう」

「パンしかないんですが」

「いいよ。ってか、パンに味噌汁?」

私が並べたパンとお味噌汁にびっくりしている。

「飲んだ日の朝にはお味噌汁飲まないと」

「いや、そうじゃなくて・・・」

「ああ、私、ご飯嫌いなんです」

「は?」

「嫌いな物、白いご飯」

「でも、麺類嫌いだって」

「嫌いです。でも頑張れば食べれます。ご飯も、白くなければなんとか食べれます」

「・・・」

宮城先生の不思議そうな顔。

「お前何人だよ」

「残念ながら日本人です」

これが、公と私の始まりだった。

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    12月。毎年恒例小児科の忘年会は、病院近くのイタリアンレストランで行われた。「今年は随分おしゃれね」隣の席に座った夏美につぶやいてしまった。今まで参加した飲み会と言えば、居酒屋や中華や奮発してお寿司って言うのがほとんどだった。こんな、イタリアンレストランを貸し切っての忘年会なんて始めてだ。「部長のアイデアらしいわ。参加人数も40人を超えているし、若いスタッフも多いから、いいチョイスだと思うわよ」「へー、部長がぁ」確かにおしゃれだから、若者はうれしいよね。「山形先生、食べてますか?偏食かなんだか知らないけれど、しっかり食べて明日からも働いてくださいよ」遠くの席から大きな声で話す部長。フン、分ってます。私の食欲不振は悪化の一途をたどり、最近ではめまいを起こすようになった。自分でもまずいなって思っているのだが、忙しくて受診する暇がない。「先生どうぞ」師長が赤ワインの入ったグラスを差し出した。え?「部長が山形先生にって」思わず見つめると、小さな声で囁いた。「先生、しっかり食べて飲んでください」またまた部長の大きな声。「はい。いただきます」私は立ち上がって部長を見ると、小さく頭を下げた。クソッ。小児科部長め。私の事が気に入らないなら、かまわずに放っておいてくれればいいのに。わざわざ話しかけてくるから、時々私のことが好きなのかしらと誤解しそうになる。まあ、そうでないのは間違いないけれどね。「紅羽、顔が怖い」グラスのワインを持ったままの私に夏美の突っ込み。分っていても笑って受け流せない私は、静かにグラスを置いた。部長からのワインだから飲まないのではない。私は本当に体調が悪いのだ。そのうちに、あちこちのテーブルで酔っ払いが大量発生しだした。***「もー、部長。ダメですよ」

  • 強情♀と仮面♂の曖昧な関係   公の決断

    秋。私も、小児科医として働くことに慣れた。相変わらず部長には嫌われているけれど、上手にかわせるようにもなってきた。「あれ、山形先生また痩せたんじゃありませんか?」「そ、そんなことないですよ」病棟師長の鋭い突っ込みに否定してはみたものの、さすがによく見てる。「体調管理万全にお願いしますね。もうすぐインフルの季節なんですから」「あー、はい」毎年、寒くなると小児科は目が回るほど忙しくなる。インフルエンザの患者や、肺炎、ぜんそくの患者で病棟はいっぱいになってしまうから、そんなときに小児科医が体調不良なんて言ってはいられない。「紅羽、本当に大丈夫なの?」「うん、大丈夫。ありがとう」夏美まで顔をのぞき込むから、一応笑って見せたけれど、本当はちょっとまいっている。実は、一昨日の夜公がうちにやって来た。平日なのに珍しいなあと思っていると、「辞表を出した」と何の前触れもなく告げられた。それに対して、私はただ頷くことしかできなかった。今の生活がいつまでも続くとは思っていなかった。いつかは考えなくてはいけないことだと思っていた。でも、こんなに早く・・・「後任もすぐには見つからないだろうから、春までは嘱託医としてこれまで通り勤務することになると思う」「そうなの」平日は診療所で勤務して週末はこっちに帰って来るという生活に、当面変化はないってことだ。きっと、家に泊っていくのだろう。「春からどうするの?」私は思い切って聞いてみた。「今、考えてる」「そう」それ以上は何も言えなかった。公のこれからの人生に私の意見は入らないんですか?って言えたらいいのにと思いながらも、かわい気のない私には無理だ。***夜、私たちは同じベットの上で肌を合わせた。お互いに寝付けないのは気づいていた。「朝になったら帰るの?」「いや、診療所は無理を言って休診にしてきたから

  • 強情♀と仮面♂の曖昧な関係   翼の父登場 ④

    夕方。今日は部長がいないお陰で定時で上がることができた。翼のことが気がかりだけど、昨夜眠っていない私はとにかく横になりたくて寄り道もせずに帰ってきた。「お帰り」「ただいま。早かったのね」先に帰っていた公に声をかけられ、驚いた。それに、すごく良い匂い。「肉じゃが作ったの?」カバンも置かずに鍋の中をのぞき込んだ。「ああ。サンマの塩焼きとキュウリの酢の物もあるぞ」「すごい和食ね」ククク。と意味ありげに私を見る公。「何?」「どうせ、俺がいないと飯食ってないだろう?」「え、そんなこと・・・」ないよとは言えず、言葉に詰まった。確かに、公が側にいなくなってから私の食生活は完全に乱れた。朝は菓子パンかコーヒーのみ。お昼はサラダとサンドイッチではなく、忙しくてチョコやクッキーをつまんで終わることが多い。そして、夜はスーパーで買った総菜で1人チューハイを飲むという不健康きわまりない生活。当然、仕事に出ても体調不良であまり動けない。こんな生活は良くないとは分っていても、1人だと何もする気にならないのだ。「今日はたらふく飯を食わせてやる。もうすぐ翼も帰ってくるから、一緒に食うぞ」私は思わず公を見上げた。今日一日うちの病院で勤務した公は、翼の噂を聞いたはずだ。だからこそ、こうして夕食の準備をしてくれている。それがいかにも公らしい。私は、ありがとうって言葉を必死に飲み込んだ。***「お疲れ」「お疲れ様」「いただきます」チーンッ。とグラスが鳴って、3人の夕食。「旨そうですね」翼がサンマに箸をつける。「ああ、いつも山の中にいるからな、魚に餓えている」真顔で言う公だけれど、これは冗談。サンマなんてどこででも買えるから。「どんなところに住んでいるんですか」

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